家具から考える、コンパクトな家のつくり方
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先日、若葉家具さんで開催されていた、暮らしの新作チェア体感フェア「すわるかわる」に行ってきました。
今回のテーマは「低座」。
会期中には「低座のある暮らし体験会」も行われ、東京・中野のモノ・モノから、主宰の菅村大全さんが来られていました。
モノ・モノは、工業デザイナーの秋岡芳夫さんを中心に1970年に始まった「グループ モノ・モノ」をルーツに持ち、現在は家具や暮らしの道具を手がけています。

モノ・モノ主宰の菅村大全さん

秋岡芳夫さんは、KAKデザイングループの一員として、多くの工業製品のデザインに関わったそう
体験会では、菅村さんから、秋岡さんが考えてきた低座の家具や、人と道具の寸法の関係について、いろいろと話を聞かせてもらいました。
椅子やテーブルだけでなく、お椀や箸といった身近な道具の寸法まで話が広がり、その中で繰り返し出てきたのが「身体尺度」という考え方。
人の身体を基準にして、ものの大きさを考える。
聞いてしまえば当たり前のようですが、住宅をつくる側として聞いていると、なかなか興味深い話でした。
身体から、ものの寸法を考える
テーブルの上には、長さの違う箸や、大きさの違うお椀が並べられていました。
箸にも、その人の手に合う長さがある。お椀も、大きければいいわけではなく、片手で無理なく持てる大きさがある。
秋岡芳夫さんは、身体のサイズに合わせて道具の寸法を考えることを「身度尺」とも表現しています。今回の体験会では「身体尺度」という言葉で説明されていました。


椅子も同じです。
菅村さんのお話では、一般的なダイニング家具には、欧米で使われてきた寸法をもとにしたものも多く、チェアの座面は42〜45cm程度、テーブルは72〜75cm程度。
ただ、その高さが誰にとってもちょうどいいわけではありません。
小柄な人、特に日本人の女性などは、深く腰掛けると足が床につきにくくなり、足を床につけようとすると浅く腰掛ける姿勢になりやすい、という話がありました。

家具に身体を合わせるのではなく、身体に家具を合わせる。
秋岡さんは、そこから家具の寸法を考えていったそうです。
この話を聞きながら、建築も同じだなと思っていました。
窓の高さも、棚の高さも、段差の高さも、最後にその寸法を使うのは人です。
家具と建築は別々に考えがちですが、そこに暮らす人の身体を真ん中に置くと、本来はつながったものとして考えた方がよさそうです。
低く座ると、場所の使い方も変わる
今回体感した低座の椅子は、一般的なダイニングチェアより座面が低く、床との距離も少し近くなります。
実際に座ってみると、深く腰を下ろして重心が低くなるぶん、少しゆったりとした感覚があります。
それでいて、床に直接座るほど立ち座りが大変でもない。
椅子座と床座の間くらいの感覚があります。

そこで出てきたのが、秋岡芳夫さんの「一机多用」という考え方でした。
一つのテーブルを、食事だけでなく、お茶を飲んだり、本を読んだり、仕事をしたり、人と話したりする場所として使う。
ダイニングとリビングの役割を一つの場所に重ねることで、限られた空間を広く使うことにもつながります。
この話を聞いたとき、街のカフェにあるソファ席を思い浮かべました。
同じ席でコーヒーを飲んだり、食事をしたり、パソコンを広げたり、長く話したりしています。
もちろん、カフェのソファ席をそのまま家に持ち込めばいいんじゃない?という話ではありません。
ただ、一つの場所を、一つの用途だけに決めなくてもいい。
そう考えると、家の大きさにも少し違う見方ができそうです。
コンパクトな家は、小さくする前に重ねてみる
家の面積を抑えようとすると、どうしても「何を削るか」という話になりがちです。
和室をなくす。リビングを少し小さくする。収納を減らす。
もちろん、それが必要な場合もあります。
ただ、その前に、一つの場所にいくつかの役割を持たせられないかと考えてみる。
食事をする場所と、くつろぐ場所。
畳で過ごす場所と、ダイニング。
仕事をする場所と、家族が集まる場所。
家具を間取りと一緒に考えておけば、必要な暮らしをあまり減らさずに、家の面積を整理できることもありそうです。
36cmくらいから、建築を考えてみる
菅村さんのお話の中で、もう一つ印象に残ったのが、36cmくらいという寸法でした。
36cmは、およそ一尺二寸。
昔の住まいにある「肘掛け窓」には、床から窓の下端までが36cmほどのものがあり、腰掛けたり、肘を掛けたりするのに具合がいい、というお話でした。
今回の低座の椅子も、それに近い高さです。

映画「男はつらいよ」でよく寅さんが過ごす窓辺
もちろん、36cmが何にでも使える万能な寸法というわけではありません。
ただ、身体から考えていくと、道具や家具、建築の中に、似たような寸法が現れることがある。
そこが妙に腑に落ちました。
例えば、30〜35cm程度の畳の小上がりをつくり、その向かい側に低座の椅子を置く。その間に高さ60〜61cm程度のテーブルを置けば、片側は椅子、もう片側は小上がりに腰掛けて、同じテーブルを囲むこともできそうです。
小上がりなら、そのまま横になったり、子どもが遊んだりもできます。
食事をしたり、本を読んだり、パソコンを開いたりする場所にもなる。
「和室」「ダイニング」「リビング」を全部別々につくらなくてもいい場合が出てきます。
テーブルと座る高さの差も気になるところ。
高さ60〜61cmのテーブルに、30〜35cm程度の小上がりを合わせると、その差は25〜31cmほど。35〜38cm程度の低座椅子から使うと22〜26cmほどになります。
同じテーブルでも、小上がり側と椅子側では、座ったときの感覚は変わりそうです。
小上がり側では、座布団を使うことも考えられます。
ここは寸法だけを頭で考えるのではなく、実際に試してみたい。
今回、若葉家具さんで話を聞きながら、そんなことを考えていると、だんだんワクワクしてきました。
MORI SPACEでも試してみました
ちょうどMORI SPACEには、座面が35〜36cmくらいのソファとチェアがあります。
そこで、今まで使っていた低いセンターテーブルを外し、大工さんがつくった高さ70cmのテーブルの脚を切って、高さ60cm程度にリメイクして入れ替えてみました。

実際に使ってみると、これが思っていた以上に具合がいい。
ソファやチェアに深く腰を下ろしたままでも、飲み物を置いたり、資料を広げたり、パソコンを使ったりしやすい高さです。
いわゆるダイニングテーブルほど姿勢を正さなくてもよく、かといって低いセンターテーブルのように前かがみになる必要もない。
打ち合わせをしながら少し長く座っていても、今のところ違和感はありません。
これが誰にとっても正解というわけではないと思いますが、意外な選択肢として気付きにつながる気がします。
MORI SPACEでは、これから実際の打ち合わせでも使いながら、もう少し様子を見てみようと思います。
家をコンパクトにするというと、何を減らすかから考えがちです。
でも、その前に、家具の側からも考えてみる。
一つの場所を、もう一つ別のことにも使えないか。
今回、MORI SPACEでも実際に家具の高さを変えてみて、間取りだけではなく、家具の寸法から考えることで見えてくることもあるなと感じました。
小さくするために暮らしを削るのではなく、必要な暮らしは残しながら、必要な面積を整理していく。
そんな考え方も、これからの家づくりでは大事になりそうです。

執筆者 /
千葉大輔 / (有)コアハウス代表・一級建築士
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